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「買ったあと」では遅い——順番の話
「先月、機械を入れ替えたんです。これ、補助金出ませんか?」
この仕事をしていて、いちばん多く、そしていちばん残念なご相談がこれです。前向きな投資をされたこと自体は素晴らしい。でも、多くの場合、わたしはこうお答えすることになります。「その買い物には、もう補助金は使えない場合がほとんどです」と。
補助金で最も大切なのは、制度の知識でも書類の腕でもなく、タイミングです。この記事では、その「順番」の話を、少していねいにさせてください。これを知っているだけで、こぼれるお金が大きく減ります。
原則——「交付決定の前」に買ったものは対象外になる場合が多い
多くの補助金には、共通するルールがあります。交付決定(補助金の交付が正式に決まること)よりも前に発注・契約・支払いをしたものは、補助の対象にならない場合が多い、というものです。制度によっては事前着手の承認といった例外の仕組みが設けられることもありますが、あくまで例外です。
「採択」と「交付決定」が別の手続きである点にも注意が必要です。採択の通知が来て安心して発注してしまい、交付決定前だったために対象外になってしまう——そんな事態も起こり得ます。発注のゴーサインをいつ出してよいかは、制度ごとに確認が必要です。
なぜ、そういうルールなのか
意地悪でこうなっているわけではありません。補助金は「過去の買い物の割引券」ではなく、「これからの挑戦の後押し」だからです。
国や自治体が補助金を出す目的は、補助がなければ踏み切りにくかった投資や挑戦を、政策として後押しすることにあります。すでに自力で買えたものは、その目的から外れてしまう。だから「これから」のものだけが対象になる建て付けなのです。この理屈が分かると、「じゃあ、買う前に動けばいいんだな」と、やるべきことがはっきりします。
正しい順番——十のステップ
補助金を使った設備投資の流れを、順番に並べるとこうなります。
- ①投資の予定が生まれる(「そろそろ機械を替えたい」でOK)
- ②相談する・使える制度を照合する
- ③公募要領を確認し、スケジュールを把握する
- ④事業計画を作り、申請する
- ⑤採択の通知を受ける
- ⑥交付決定を受ける
- ⑦発注・契約する
- ⑧支払い・納品を終え、事業を実施する
- ⑨実績報告を提出する
- ⑩補助金が入金される
命綱は⑥と⑦の順番です。ここが逆になると、それまでの準備がすべて無駄になってしまう場合があります。逆に言えば、投資の時期を公募のスケジュールに合わせて数か月調整するだけで、同じ買い物が補助の対象になる場合がある、ということです。
「早すぎる相談」というものは、ありません
順番の話をすると、「じゃあ、いつ相談すればいいのか」と聞かれます。答えはシンプルで、早ければ早いほどいい、です。見積もりを取る前でかまいません。「いつかは設備を入れ替えたいと思っている」という段階で十分です。
予定さえ聞かせていただければ、公募のスケジュールから逆算して、「いつ申請して、いつ発注できるか」の絵をこちらで描けます。相談が早いほど選べる制度が多く、打てる手も多い。わたしが「決める前に相談してください」と繰り返しお伝えしているのは、このためです。
もう買ってしまった方へ
この記事を読んで、「うちはもう買ってしまったよ」と肩を落とした方がいるかもしれません。でも、終わりではありません。その買い物が対象にならなくても、会社の予定はこれからも動き続けます。次の設備更新、賃上げ、採用——その一つひとつが、制度を確認するタイミングです。
一度こぼしたお金は戻りませんが、次からこぼさないことはできます。「買う前に、ひと声かける」。この習慣が身についた会社は、数年単位で見ると、資金調達の景色がまるで変わってきます。
まとめ——合言葉は「決める前に」
買ったあとでは遅い。決めたあとでも、遅いことがあります。合言葉は「決める前に」。設備・賃上げ・採用、どれかの予定が頭に浮かんだその日が、相談のベストタイミングです。
これは補助金に限った話ではありません。融資も、税制の優遇も、雇用まわりの助成金も、多くの制度は「実行の前」に動いた会社に有利にできています。経営の予定を、実行の少し手前で言葉にしておく。それだけで、同じ経営をしていても、会社に残るお金が変わってくる。「順番」は、お金のかからない、いちばん確実な経営改善だと、わたしは思っています。
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